袱紗

「後向き猫」の納品から10日ほどした頃、そのお客様がまた来られた。

「差し上げた知人が予想以上に感激され、今度はその方がドイツの友人にプレゼントしたいとおっしゃっいました。『表面は赤を中心に船の積載マークと年号、隅にはイニシャル。裏面は作者の思い通りに家紋を散らして下さい。それも出来るだけカラフルな色づかいで。』とおっしゃっていたのですが、このような事も出来るのでしょうか？」
なかなか面白そうな仕事である。
その依頼は私の制作意識をかき立てるものであった。
その後、お客様と何度かの打ち合わせをして取りかかる事となった。
地色は両面ともドイツの国旗から。家紋は配色で見せるため、出来るだけ単純なデザインを選んだ。
生地も制作方法も全く初めてのケースの為、下絵から仕立てに至るまでの全行程には気が抜けなかった。
しかしそんな苦労も一気に忘れさせてくれるような出来栄えとなり、お客様も私自身も大満足であった。