釘抜きと手裏剣

釘抜き紋は非常に不可解である。何がどう釘抜きなのか?
ここで取り上げた森本景一説の他に森本勇矢がたてた新たな説がある。それは『歴史読本』で発表している。

第一話 「釘抜きの不思議」

以前、一週間に渡りラジオで大宮華紋について話をさせて頂いた時のこと。
忘れ去られようとする家紋」その素晴らしさを視聴者の皆様に伝えようと、そのデザインのユニークさをご紹介したのである。

釘抜
釘抜(画像1)
丸に一挺釘抜
丸に一挺釘抜(画像2)
梃釘抜
梃釘抜(画像3)
違い釘抜
違い釘抜(画像4)

五日目のその日、「釘抜き紋」について触れてみた。
皆様が真っ先に頭に思い浮かぶ「釘抜き」とは恐らくバール型のものであろう。
ところが紋帖に伝わる「釘抜き(画像1)」はその言葉からは全く想像もつかないようなものなのである。
ペンチ型(画像2)も存在するがその数はかなり少なく、そのほとんどが正方形を斜めに立て、その中心を小さな正方形にくり抜いた形(画像1)なのである。

この正方形の板状のもの(画像3)は、当時の大釘を抜くためのものであった。それは中心部のくり抜かれた部分(正方形の穴)に釘の頭を入れたり、または梃を通し、梃子(てこ)の原理を利用した万力として使ったとされている。
従ってこの板は釘を抜く際に座金として使用された為、元々は「釘抜座紋」であったという。しかしいつしかこれが「釘抜紋」と呼ばれるようになった為、現代では何の事なのか分からなくなったのである。

この釘抜紋は九城(くき)を抜くと云われ、九つの城を落とすという当時の語呂合わせと戦勝の縁起で家紋にされたという。
家紋の中にはこのような言葉遊びの様なものが多く存在する。しかしその意味が解明されるまでは全く謎だった。

この遊び心はデザインにも独特な世界を作り出している。家紋は基本の形から約束事の中で色々と形を変えていく。この変形パターンが非常に面白い。
例えば、何か二つのものを横に並べれば「並び何とか」、その二つを斜めに違わせて重なり合わせれば「違い何とか」といったような約束事がある。
ところが「違い釘抜(画像4)」はまさに例外で、くり抜かれた二枚の鉄板が重なり結び合っている。
現実にはありえない事だがデザイン上ではまるでマジックのように可能なのである。

さて、この基本形である「釘抜紋」のデザインだが、正方形の鉄板の中心部をくり抜いた四角い穴。私はこの形の共通したものに忍者の使っていたとされる十字手裏剣を思い重ねていたのである。
これを言い直しの利かないラジオの本番で「十字手裏剣の原型となった釘抜き」と言ってしまったのだ。これは誰かに教わった訳でもなければ勿論本で読んだ訳でもない。
何故か無意識のうちに口走ってしまっていたのだった・・・。

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第二話 「手裏剣」

手裏剣
画像5(秘武器の全てが分かる本より引用)

子供の頃にヒーローとして憧れていた忍者。
大工に扮装(ふんそう)し、釘抜きをこのように加工し武器として使ったものだと思い込んでいたのだった。
家紋研究の第一任者である先生に尋ねると「私は気にも止めなかったが、なるほどその話は面白い」と言われた。
しかしこのままでは私に不安が残るのである。
そう言えば古銭も四角い穴が空けられている。現代のコインやまた外国のものにはこのような形は見られない。これは当時の美意識なのか、それともまた別の何かがあるのだろうか。
調べてみた結果、製造加工時の固定目的(四角い棒に通す為)であったというのだ。ところが釘抜きの中心部は梃を通す為のもの。古銭のものとはまた違うのである。

丸に平糸巻
丸に平糸巻(写真6)
丸に違い鉄砲糸巻
丸に違い鉄砲糸巻(写真7)
丸に反り釘抜
丸に反り釘抜(画像8)

そして数日後これを決定づける資料に巡り合えたのである。
それは友人が最近手に入れたという忍者の武器の本であった。そこには「回転しながら飛び、どの角度でも突き刺さる手裏剣を車手裏剣(くるましゅりけん)と呼び別名、糸巻剣釘抜剣とも呼称される」とあり、右の写真(画像5)が掲載されていたのである。

これはと思い日本家紋総監を早速調べてみた。
まずは糸巻きのページから。
糸巻きとは糸を巻いてある板の事であるという。なるほど「丸に平糸巻(画像6)」はそれらしい形である。「丸に違い鉄砲糸巻(画像7)」などは八方手裏剣を思わせる。
この書物は墓石からデーターを取ってある為、一般の紋帖とは違い白黒反転になっている。この事が忍者の武器というテーマだけにより一層連想効果を上げていた。

さて、いよいよ釘抜紋である。そのページを捲ったとたん思わず息を呑んだ。
その覧にある「丸に反り釘抜(画像8)」の中の「反り釘抜」が先ほどの画像5にそっくりではないか。子供の頃の十字手裏剣のイメージとは違うものの、偶然とはいえ、少し出来すぎではないかと思わざるを得なかったのである。

私の今の夢は自分なりの家紋追求。今回のテーマで子供の頃憧れていた忍者とこのような形で結び付こうとは思いもよらなかったのである。

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京都家紋研究会

家紋を探る(ブログ)

森本景一
1950年大阪府生まれ。
染色補正師、(有)染色補正森本代表取締役。日本家紋研究会理事。
家業である染色補正森本を継ぎながら、家紋の研究を続け、長らく顧みられなかった彩色紋を復活させる。
テレビやラジオなどの家紋や着物にまつわる番組への出演も多い。
著書に『大宮華紋-彩色家紋集』(フジアート出版)、『女紋』(染色補正森本)、『家紋を探る』(平凡社)があるほか、雑誌や教育番組のテキストなどにも多数寄稿している。

森本勇矢
染色補正師。日本家紋研究会理事。京都家紋研究会会長。1977年生まれ。
家業である着物の染色補正業(有限会社染色補正森本)を父・森本景一とともに営むかたわら、家紋の研究に取り組む。
現在、「京都家紋研究会」を主宰し、地元・京都において「家紋ガイド(まいまい京都など)」を務めるほか、家紋の講演や講座など、家紋の魅力を伝える活動を積極的に行なっている。
家紋にまつわるテレビ番組への出演や、『月刊 歴史読本』(中経出版)への寄稿も多数。紋のデザインなども手がける。
著書に『日本の家紋大事典』(日本実業出版社)。
ブログ:家紋を探る京都家紋研究会



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