色に想ふ 〜森本景一色彩論〜 「配色」

無彩色は色じゃない?

私が20代前半の頃の話である。ファッションデザイナーである友人宅での出来事だった。
友人は商品サンプルの配色コーディネイトの最中で、
おまえの色のセンスを試してやる。この中から2色ずつ組み合わせて10配色作ってみろ。
横で見ていた私に、そう言って一握りのニットの小布を差し出したのである。
突然の友人の申し出に驚きはしたが、物は試しにという事で自分なりの配色コーディネイトを作ってみた。
出来上がった私の配色を見た友人は、
何だ!おまえのはほとんど、白、黒、グレーとの組み合わせではないか!これなら誰がやっても綺麗に見える、卑怯だ!無彩色は色では無いからこれでは配色とは言えない!
私はただ、カラフルな有彩色をより美しく引き立たせるために、無彩色を組み合わせたのである。
友人に指摘され再度、有彩色だけで組み合わせてみたが、かなり手こずったように記憶している。

高校生の頃、この友人とよく色の話をしたものだ。その頃の友人はどうも紺と茶の配色が受け入れられなかったようである。
ある日、2人で映画「ブリット」を見に行った時の事。
主演のスティーブ・マックィーンが、花紺のタートルネックのセーターに、茶色のヘリンボーンのジャケットを組み合わせていた。
それは妙に美しく、私の目にも不思議なくらい新鮮に映ったのである。
しかし今までの私達にはタブーであったこの組み合わせが何故こんなにもマッチしているのだろう。
よくよく観察して見ると、マックィーンの目はブルー、そして髪はブロンド。どうやら秘密はこれのようだ。
ブルーは紺を明るく鮮やかにした色。ブロンドは茶を明るく鮮やかにした色である。つまり、これらの組み合わせが配色にリズムを持たせていたのだ。
そして上着の隙間から覗く拳銃ホルスターの白がまた映像効果を上げていた。これは到底、我々ではなし得ない芸当だ。
美しさの秘密はまだ他にもある。そう肌の色である。我々黄色人種は肌の色も配色として計算に入れなければならないが、白人や黒人はどうだろう。白人の肌は白に近く、黒人は黒に近い。
白や黒が有彩色を引き立たせるモノであれば、彼らの肌の色が衣服との配色効果を上げるのは当然だ。白い肌、ブロンドの髪にブルーの目。これらはパステルトーンと見事にマッチするのだ。

ステンドグラス黒人の肌にはまるでステンドグラスのように、ビビッドトーンがよく映える。
黒ラインは原色の組み合わせには欠かせないのだ。
また友禅染めの美しさに糸目の白がその効果を上げている。
やはり無彩色は有彩色を引き立たせるのである。