基調色と強調色2
私がこの補正業に就いて数年程経った頃の事。
ある高級着物製造業の社長がこの基調色の事を「死に色」と呼んでいた。
自分の作品の友禅染めを例に上げ、
「主となる色を活かすにはこの『死に色』の役割が大切だ」
と私に教えてくれたのがこの社長。
ところがこの社長は大変な勘違いをしておられたのだ。
私のしみ抜き作業を見ていた社長が、ベンジンで濡れた部分(着物の)を指さして
「その『濡れ色』がなかなか出ない、いくら挑戦してもこの色が出せる染め屋はいない」
と嘆いておられた。
この「濡れ色」は、濡れていない部分から見れば光沢があり濃く鮮やかに見える。つまり、「乾燥部分=基調色」。対して、「濡れている部分=強調色」となるのである。
実のところこの濡れ色と同色に染める事は可能なのだが、その着物が再び部分的に濡れれば、乾燥している本来の色は基調色(死に色)になってしまう。
結局堂々巡りであり、これはどこまで行っても無理な話である。
強調するにはそれを引き立たせる基調色を視野に演出すればいいのである。
この大切な配色の関係を教えてくれた社長が、どういう訳かこのカラクリを暴けなかったのである。
基調色と強調色の関係とはあくまでも人の視野の世界であり、絶えず変化しているものなのである。