色に想ふ 〜森本景一色彩論〜 「配色」

幻の配色

時間経過の配色に分類される特殊なケースをご紹介しよう。
着物の地染めで「二度染め」「三度染め」というものがある。これらは一度で出ない色を繰り返し重ねて染めるいう技法の事である。特に濃度の高い色、つまり濃い色の場合に多い。
昔から黒染めの場合も「紅下(べにした)」「藍下(あいした)」といって、黒染めの前の下染めとして紅や藍を染めたものである。
元々、紅染めは保温や魔よけ、藍染めは虫よけなどという理由はあるが、微妙に赤みの黒、青みの黒として、好みも分かれていた。

さて反物を染める場合、さほど濃くも無く一度でも十分に染まるであろうと思われる場合も 「二度染め」「三度染め」を試みる事が多々ある。
引き染めに多く、反物の入り口にはに2色、3色と異なった色目を残す事により、下染めを繰り返した事を表しているのである。
濃度が高くなければ、化学染料で技術が伴う事により、一回で十分染まるのである。
色目も特に問題は無いと思われるのにそれはどういう事なのか。
一度の染めでは出ない「良い色」を出すのが狙いだというが、当然手間をかけるだけ、コストが高くなるのである。
ではここでいう「良い色」とは。
染め職人の頭の中には、繰り返し染める事による時間経過の配色効果があるのではないのだろうか。
結果的には反物の入り口でその配色が見られるが、着物という形になってしまえば、それは第三者からは全く無縁の世界だ。しかしながら作り手や販売などに関わった人達の間では重要なこだわりであり、この想いがお召しになる人に伝わるのであろう。
少し不思議な世界である。
また思い出の着物や譲り受けた着物などを染め変えるケース。
これらも他人には踏み込めない、こだわりの時間経過の配色が存在するのだろう。
女性の化粧や着替え。またインテリアの模様替えなども自分しか知り得ない変化による快感や満足があるのだろう。

現在私の愛用している黒の作務衣も以前は藍染めであった。
ここにも私を癒してくれる「幻の配色」が存在するのだ。