私紋
私紋とは読んで字の如く自分だけの紋章のことである。
家紋ではなく「個人の女性のもの」であり、装飾目的が強く代用的ではあるが、この類(たぐい)も女紋の一つの形といえるであろう。
私紋の成り立ち
江戸時代元禄の頃では、武士のような階級の高い者だけでなく、女性を含んだ庶民までもが家紋を付け出したという。それまでの庶民には家紋を持つ事や付ける事が許されていなかったため、家紋を真似たと言った方が良いのかも知れない。
世の中が平和になってくると、それまでの武士達の威厳に満ちたような家紋などだけではなく、装飾性の高いものへと変わってくる。また、逆に武士達が庶民のものを真似るといったようなことまで起こり始めた。そして女性たちも自分だけの優美な紋章を作り始めた。これがこの私紋である。
紋章の新しい風
月に蝙蝠 |
夕波兎 |
江戸時代後期の頃、男女問わず遊び絵や擬態絵を紋章化したものが数多く制作されたようだ。しかしそれは家紋として使用するようなものではなく、芸術的なものであったり、趣味的な要素が強かったようだ。これらは遊び紋といえるのかも知れない。
江戸時代の上絵師が制作し、保管していたとされる遊び絵を元にした紋章が現在でも平安紋鑑(へいあんもんかん:紋帖の一つ)に掲載されている。
その中でも洗練されたデザインと申し分のないインパクトがある「月に蝙蝠(つきにこうもり)」と「夕波兎(ゆうなみうさぎ)」をご紹介しておこう。
家紋意識の薄れた現代でもまた私紋が増える傾向にあるようだ。自分の好みに合わせて他の紋章や紋帖などから好きな紋を選んだり、また新たに創作するのである。
紋章を家紋ではなくアートとして捉えることがより文化的であり、また自己を主張する手段の一つといえよう。それは女性が一人の女性として輝く証ではないのだろうか。
私紋の具体例
例.1
Hさんの家系の家紋は「丸に桔梗」。母方の祖母からは女紋として「揚羽蝶」が伝わってはいるが、どちらも個性に欠けるように思え、気が進まない。しかし先祖を捨てる勇気も無く、専門家に相談してみた。そこで薦められたのが、家紋の桔梗と女紋の揚羽蝶を組み合わせた「揚羽桔梗蝶」。一目で気に入ってしまった。礼装以外のお洒落着は全てこの紋に決めようと思っている。
丸に桔梗 |
揚羽蝶 |
揚羽桔梗蝶 |
例.2
Iさんの場合。「家紋も女紋も平凡でつまらない。私は椿が好きだから『椿紋』は出来ないだろうか?」と専門家を尋ねた。「昔はありましたが、今は紋帖からも姿を消しています」と言われたが、私の好みを新たにデザインして頂いた。これからは私だけの紋として大切にしていきたい。
※「椿其の二」は当社で作成した創作紋。
椿其の二 |